映画「怒り」主演 渡辺謙インタビュー −役と同じように悩み、苦しむことの大切さ−


渡辺謙

−役と同じように悩み、苦しむことの大切さ−

取材・文/映画ナタリー編集部写真/moco.(kilioffice)

渡辺謙が主演、李相日が監督を務めた映画「怒り」が9月17日に全国公開される。吉田修一の同名小説を実写映画化した本作は、ある殺人事件の容疑者として浮上した3人の男たちを中心に、彼らを取り巻く人々が信用と疑惑の間で揺れるさまを、千葉、東京、沖縄を舞台に描いた群像劇。ビデオパスでは、千葉編に槙洋平役で出演した渡辺にインタビューを実施し、役柄への思いや撮影現場でのエピソードなどを語ってもらった。

渡辺謙(わたなべけん)
1959年10月21日生まれ、新潟県出身。「沈まぬ太陽」で第33回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した。「ラスト サムライ」「インセプション」「GODZILLA ゴジラ」「許されざる者」など、国内外の映画に精力的に出演。近年はミュージカル「王様と私」、朗読劇「ラヴ・レターズ」に出演するなど幅広く活動している。

──渡辺さんは「許されざる者」でも李監督の作品に出演されていますが、「怒り」でまたタッグを組むと決まったときの心境は?

「許されざる者」が完成したときに、李監督が持っている世界観が日本映画界の宝物のような感じがして。俳優としてその世界に関われるのはとても有意義だし大事なことなので、彼に「また何か僕が参加できるようなものがあれば、どんな役でもやらせてね」という話はしていたんです。次回作として「怒り」の話がきたときは「あちゃー、これかー!」っていう感じでした。

渡辺謙

渡辺謙

──そうなんですね。「怒り」は渡辺さんの抑えた演技が印象的でした。槙洋平という役柄にどのように向き合って演じましたか?

洋平そのものからは、生き方を定めて足跡を残しながら毎日を過ごしているという感じはしなかったんですよ。どこか現状に流されながら生きているところがあって、それが親子関係にも表れている気がしましたね。だからそういう部分を表現するためには、自分から何かを能動的にする思考回路を抑えるというか。まあ監督に抑えさせられたと言ってもいいんですけど(笑)。ずっと悩まざるを得ないようなシーンが続いていきましたね。

──例えばどんなシーンで悩んだのでしょうか。

特に後半戦かな。洋平と愛子がいて、田代がいるという関係性はちょうど二等辺三角形みたいじゃないですか。愛子がどんどん男に惹かれていくのを目の当たりにしながら、洋平は自分ではどうにもできないんですよね。彼女との間につながれたロープを離さないように、ギリギリのところでただ見守っているしかないんです。でもそこには、娘に幸せになってほしいといった思いだけじゃなくて、ある種自分が背負わされているものから楽になりたいという逃げみたいなものを感じました。「人間ってそういうところあるよな」と常に思わされていましたね。

映画「怒り」

「怒り」より。©2016 映画「怒り」製作委員会

──槙洋平という役には、ご自身に近いところを感じましたか。

自分の中にもそういういい加減さや優柔不断さがきっとあるんだろうなと突きつけられる感じがしましたね。

──演じるにあたっては、監督と役についてお話されました?

してくれないんですよ。僕もあえて求めはしないんですけど、李監督と仕事をするときは、シーンごとに非常に短い時間の中でとにかく穴を掘り続けるというか、地道な作業の連続なんです。役に向き合うというよりは、彼は今どう生きているんだ?と考えて、それを肉体を使って表現する必要があるので、自分もキャラクターと同じように悩むし、苦しんでいくことが大切だったんです。

──千葉編は静かにドラマが積み上がっていく印象がありましたが、現場の雰囲気はどのような感じでしたか? 撮影時の印象的なエピソードがあれば教えてください。

東京、沖縄と撮影をしてきて、スタッフはみんなボロボロになってきているんですよ。千葉編は移動がそんなになかったし、懸念事項は天気くらいかな? だけどやっていることは(ほかのエピソードと)変わらなくて、心情の変化などの部分はほかと同じくらいの振れ幅を求められるんですよ。その分精神的にはきついものがありましたね。

映画「怒り」

「怒り」より。©2016 映画「怒り」製作委員会

──なるほど。宮崎あおいさん、松山ケンイチさんと共演してみていかがでしたか?

彼らは李監督とは初めてなわけですから、最初のうちはなめてましたね(笑)。

──えっ、そうなんですか?

ロケ地が千葉なので、1時間半くらいあれば帰れるわけですよ。それでスケジュールを見ながら「この日とこの日は帰れるんだな」とポソポソとつぶやいているから「何言ってるの? この監督が家に帰らせてくれるわけがないだろ!」と言って(笑)。監督は僕だろうがあおいちゃんだろうが松ケンだろうが容赦しないし、どんな小さな役でも同じような悩みを振るわけですよ。彼らはおそらく初めてであろう、自分が役に寄り添いながら人間として同じように悩むという経験をして。悶々とする時間というのが、オンキャメラだったり現場以外のところでも必要なんです。そのことに彼らも気付いたのがわかって「きっと今悩んでいるんだな。どう対処していいか苦しんでるんだろうな」と感じましたね。それはすごくいいことなので、潤沢な時間はありませんでしたが楽しんでいました。

──宮崎さんは、完成報告会見で「現場でも渡辺さんを『お父ちゃん』って呼んでいて、2週間しか一緒にいなかったとは思えない濃密な時間だった」と話していました。

映画「怒り」

「怒り」より。©2016 映画「怒り」製作委員会

あおいちゃんは口では言わないけど、最初はちょっとうっとうしかったと思う(笑)。

──そんなことはないと思います(笑)。共演シーンのない東京、沖縄編の若手俳優については、どのような印象を抱かれましたか?

原作や脚本を読んでイメージしたり、スタッフに「あのシーンどうだった? よかったんだよね?」と聞きながら千葉編を撮っていたんです。うち(千葉編)だけダーッとつながっているならこの現場のことだけを考えていればいいんだけど、俳優なので作品そのものの成り立ちをちょっとだけ感じながら、その前後を考えて演じる必要があったんです。できあがった作品を観たときは、話が進むにしたがって、いろんな人の気持ちがビートのように同期していくことに驚きましたし素直に感動しました。普通の映画だったら自分が関わっていないシーンは3分の1くらいですが、今回は3分の2もあったので、その分はお客さんの気持ちで圧倒されながら観ていて。でも自分たちのシーンになると、自分の心の中に残っている振動と符号するので不思議な感覚でした。

※宮崎あおいの崎は立つ崎(たつさき)が正式表記

「怒り」は9月17日より全国劇場にてロードショー
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© 2016映画「怒り」製作委員会

出演:
渡辺謙 森山未來 松山ケンイチ
綾野剛 広瀬すず 佐久本宝 ピエール瀧 
三浦貴大 高畑充希 原日出子 池脇千鶴 
宮崎あおい 妻夫木聡




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