「君の名は。」公開記念 新海誠×栗山千明 スペシャル対談


「君の名は。」公開記念 新海誠×栗山千明 スペシャル対談


「君の名は。」公開記念 新海誠×栗山千明 スペシャル対談 純粋なキャラクターに背中を押されて

取材・文/ビデオパスnavi編集部写真/佐藤類
メイク/ HIROTAKA IIZUKAスタイリスト/ ume衣装協力:elisabetta



新海誠が監督を務めた劇場アニメ「君の名は。」が8月26日に封切られる。夢の中で入れ替わる高校生男女の恋と奇跡を描く青春ドラマで、キャストには神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ、市原悦子らが名を連ねている。ビデオパスでは、3年ぶりとなる劇場作品の公開を控える新海とアニメ好きとして知られる女優・栗山千明との対談を実施。「君の名は。」を軸に、アニメーションや声優の魅力、作り手としての思いなどを語ってもらった。

寂しいとか、悲しいとかではなく涙が流れた(栗山)

──まずは栗山さんに「君の名は。」をご覧になった感想を伺えれば。

栗山 私、劇中に出てくる組紐の経験があって。あと三葉が劇中で披露している巫女舞も実際に見たことがあったんです。まずその接点がうれしかったです。

新海 こちらこそ、うれしいです。

栗山 独特な時間の流れの中で描かれる瀧と三葉の結び付きがとても心に残りました。映像も本当にきれいで、出てくる登場人物がみんなすごく純粋で、観ていてキュンキュンきました。どうしてかはわからないんですけど懐かしい気分になれて、そのあと優しい気持ちになりました。

新海 栗山さんがキュンキュンしてくださったなんて……もうありがたいです(笑)。

栗山 失礼かと思うんですが、初めは瀧と三葉、男女が入れ替わるという設定はよくあるなと思ったんです。でも、そこからの物語の流れは本当に予想がつかないもので。

「君の名は」

「君の名は。」

新海 確かに入れ替わりものは昔からありますよね。大林宣彦監督の「転校生」だったり。かつては、男子が女っぽくなってからかわれるとか、女子が男らしくなって「女っぽくない!」って注意されたりという構造が入れ替わりものの面白さだったと思うんです。でも今の時代に男の子が女の子っぽいとか、女の子が男の子のように振る舞うことを描いても「それでなんなの?」ってことにしかならないと初めから思っていました。だから入れ替わりからスタートするけど、その先は全然別の出口を目指さなければと考えていたので、今の栗山さんの感想は自信になります。

栗山 その出口を観て、涙が出ると思ってなかったのに泣いちゃって。寂しいとか、悲しいとかそういう単純な感情ではなく涙が流れたのは久しぶりでした。私がアニメーションだと感情移入しやすくて、涙もろくなるというのもあるんですが。実写だといいシーンを観ても「でも実は裏で違うこと思ってるんじゃないの?」とか勘ぐっちゃって(笑)。

新海 役者が透けて見えるということ?

栗山 うーん、俳優の仕事とは少し距離があるアニメーションだから、その世界を素直に受け入れられるのかもしれないですね。キャラクターの発言する言葉や行動をまっすぐに受け止めることができるので。

新海 アニメーションってそういう機能があると思います。栗山さんを目の前にして言うのは恐縮なんですけど、役者さんはその映画のために生まれてきたわけではないですよね。その人の人生が全部積み重なって顔や演技があるわけで。だから映画以外の情報も必然的に持っていると思うんですよ。もちろん、それは素晴らしいことなんですけど。でもアニメーションのキャラクターって、作品のために生まれてきたものだから、よくも悪くもすごくピュアなんですよ。物語やメッセージを伝える手段としてはすごく性能がいい。不純さを感じさせず、まっすぐにメッセージや感情を伝えることができるから。

固まりきらない関係のリアリティ(新海)

──栗山さんは新海監督の過去作もご覧になっているそうですね。

栗山 はい。花澤香菜さんと入野自由さんが声を担当されている「言の葉の庭」が特に好きで。ほかの監督作も、人の温かみや男女の独特な距離感を味わえるという点では共通しているんですが、作品によって受ける印象がぜんぜん違うのが面白いです。

新海 そうですね。扱うテーマはどうしても男女の関係性の話になってしまいますね。「言の葉の庭」は、20代半ばの女性と男子高校生の間の距離を描いた話で、今回の作品も少年と少女という軸があります。

「君の名は」

左から新海誠、栗山千明。

栗山 男女が、2人の間にある距離の中で、思いを募らせたり、すれ違ったりする。その心の揺れ動きが新海監督の持ち味なのだと感じました。

新海 こちらから対象を決めているわけではないんですが、僕の作品の観客は比較的若い子が多いんです。彼らは、まだ固まりきらない関係性にリアリティを覚えると思っていて。夫婦のような安定した関係のはるか手前にある、流動的なつながりの中で生きているので。キャラクターの感情の揺れ動きを見て共感してもらい、現実の彼らの生活に持って帰ってもらえる何かを込められればと思いながら作品を作っています。

──「言の葉の庭」での花澤さん、入野さんの演技はいかがでした?

栗山 声優さんを職業として尊敬していますし、その中でも好きな声優さんたちなのでお芝居がどうとか言える立場ではないんですが、思いをぶつけ合うシーンのお芝居のテンションがすごくて。感動というとすごく安っぽく聞こえて嫌なんですけど……もう言葉が見つからないぐらいで。

新海 僕もあのシーンには圧倒されました。声だけでやってきた人たちのすごみを感じて。お互い泣き叫び、「嫌いだ」って言いながら好きだという思いを表現してね。

栗山 そうそう。その前のシーンで入野さんは「好き」って言ってたのにすぐ「嫌い」って、もうどっちだよみたいな(笑)。でもそれがすごく人間臭くて。好きだからこそ「嫌い」って言う、その切なさが声にこもっていて本当にすごい場面ですよね。

神木くんの声じゃなくてキャラクターの声だった(栗山)

新海 「君の名は。」の三葉は上白石萌音さんという女優さんが演じたのですが、先輩として何かご感想ございませんか?

栗山 いやいや私なんかが……もう素晴らしい演技で。私も声優の経験はあるんですけど、やるたびに難しいなと思います。経験したからこそ、声優さんたちは本当にすごいとより強く感じるようになりました。

新海 「スカイ・クロラ(The Sky Crawlers)」で押井守さんとご一緒されたんですよね。どうでしたか。

栗山 押井さんご本人も好きですし、作品も大好きだったので、それだけで緊張しました。アフレコ現場で押井さんはすごく丁寧にシーンの意味やキャラクターの特徴などを話してくれて、じっくり向き合ってくださいました。あと、そのときは1人ずつ、別録りだったので、余計に緊張しましたね。

新海 僕は複数のキャストで一緒に録ることが多いんですけど、別録りのほうが1人のキャストに集中できるというのはありますね。だから、そっちのほうがいいなって思うときもあります。でもキャストの方はみんなで録音したほうがやりやすいですよね。

栗山 そうですね。私は皆で一緒のほうがやりやすそうだなと思いました。アフレコをすると、自分が好きだからこそ全然下手だなと感じてしまいます。やっぱりプロの方と比べちゃダメですよね。

新海 いや、そんなことないと思いますよ。俳優と声優は互換性があるんじゃないかな。

「君の名は」

「君の名は。」

栗山 神木くんは何作も声のお仕事をやっていて。安心して聴いていられるというか。瀧の声を聴いて、神木くんって気付かなかったです。一言目から神木くんの声というよりキャラクターの声で。違和感がなくてすごいなと思いました。

新海 押井さんは、ブースの中に入ってきて「ここ直して」とか指示をなさるんですか?

栗山 入ってきて指示してくれました。丁寧だし、優しい感じで声をかけてくださいましたね。

──新海監督はどのように指示を出されるんですか?

新海 僕は、自分でセリフをしゃべりますね。「これくらいの声量で」って実際に演じて見せます。ただ、理想通りに自分がしゃべれるわけではないので、芝居の種のようなものをお渡ししてその反応を見ることが多いかな。言葉で説明する場合もありますけど、人間って常に理屈付けがあってしゃべるわけではないから“出ちゃった声”のほうが大事。だから、出ちゃった声がこうであってほしいというお願いの仕方をします。

栗山 確かに、実際にやってもらえると伝わりやすいですよね。ドラマや映画の撮影で、男性の監督が演技を付けてくださるとき「こう動いてほしい」と女っぽく演じて見せてくれたりして、わかりやすいんですけどちょっと笑っちゃうときもあります(笑)。

新海 それはもう、本気だってことですよ(笑)。ご自身でも言っていましたけど、神木さんは内面が三葉のときは内股でしゃべっていましたよ。そういう立ち方をしないと出せない声もありますよね。

作り手は簡単には拭えないモチーフを持っている(新海)

──「君の名は。」には踏切や満員電車、クレーターなど新海監督が過去作でも描いてきた風景が複数登場しますね。

新海 特にこだわっているわけではないんですよ。作り手は簡単には拭えないモチーフを持っているものなんだと思うんです。僕であれば思春期の少年少女の距離感とかですね。自分が結婚したあとでもそのモチーフから離れることができなくて、一生のテーマなんだと思います。同じようなものとして共通して出てくる風景があるんでしょうし、気持ちが引きずられていてクリアにできないんでしょうね。だから意識的に「もう一回この風景を出そう」と考えているわけではないです。

栗山 学生時代のやりとりとか、ご自身のエピソードからふくらませた話ってあるんですか?

「君の名は」

新海誠

新海 なくもないかな。「秒速5センチメートル」という映画を昔作ったんですけど、その中で好きな子に会いに行く途中で、電車が雪で遅れてしまうシーンを描いたんです。僕もそういうことがありましたね。好きな子に会いに行くのに、宇都宮線が大雪で止まって。それはダイレクトなほうで、ほとんどのシーンはもうちょっと間接的ですね。でも役者さんも、役の心情を表現するとき、自分の中の近い思い出をヒントにしたりするんじゃないですか?

栗山 私の場合は、その作品のストーリーから感情を作ります。自分の日常の経験からというのはあまりないですね。撮り順とかはバラバラだったりするんですけど、撮影しているうちにその役としての思い出や経験が自分の中に蓄積されていくので、感情を表現できる。だから初日から泣きの芝居とかってなると厳しいんですけど(笑)。

愛しいという一点で必死に走り回っている2人の物語(新海)

──最後にこれから「君の名は。」を観る方に一言お願いします。

栗山 三葉とその友人たちが損得とか関係なく無条件に信じ合って、力になろうと奮闘しているシーンを観て、友達が欲しいなって思いました(笑)。あと最後まで観ていただけると突き動かされるというか、意欲的になれる作品です。自分を持ち上げてくれるような、強い思いがこもった映画になっています。今年の夏ぜひ観てほしいです!

新海 栗山さんが言ってくださった通りなんですけど、瀧と三葉は止むに止まれぬ気持ちでお互いに必死で手を伸ばすんです。それは一言で言ってしまえば恋なんでしょうけど、義務感でも正義感でもなく、愛しいという一点で必死に走り回っている子たちの物語になっています。そんな2人の姿を見ることで、観客がどこか背中を押されたような気持ちになっていただけたらうれしいです。 

「君の名は」

左から新海誠、栗山千明。

栗山 あと、奥寺先輩が特に素敵で。瀧と三葉のような純粋さとは違う大人の無邪気さや愛嬌があって、あんな女性になりたいなって思いました。そこを目標にしていこうと思います(笑)。

新海 栗山さんは、奥寺のイメージと重なりますよ。手の届かない雰囲気が素敵だなって、今日お会いして思いました。

新海誠(シンカイマコト)1973年2月9日生まれ、長野県出身。2002年に公開された個人制作の短編アニメ「ほしのこえ」が新世紀東京国際アニメフェア21(現・東京国際アニメフェア)公募部門の優秀賞をはじめ多くの賞を受賞。2004年に初の長編作品「雲のむこう、約束の場所」を発表。以後「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」「言の葉の庭」などを制作し、国内外の映画賞で受賞を重ねる。米エンタテインメント誌Varietyの「2016年に注目すべきアニメーター10人」に選出された。

栗山千明(クリヤマチアキ)1984年10月10日生まれ。幼少期より芸能活動を始め、「死国」で本格的に女優活動を開始。2000年に公開された「バトル・ロワイアル」の演技が話題を呼び、2003年にはクエンティン・タランティーノからのオファーを受け「キル・ビル Vol.1」でハリウッドデビューを果たす。以後、「スクラップ・ヘブン」「ハゲタカ」「図書館戦争」などでさまざまな役に挑戦。「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」「ドラゴンエイジ -ブラッドメイジの聖戦-」といった劇場アニメで声優を務めている。

「君の名は。」
2016年8月26日 全国東宝系公開

君の名は

監督・原作・脚本:新海誠
声の出演:神木隆之介 上白石萌音 長澤まさみ 市原悦子 成田凌 悠木碧 島崎信長 石川界人 谷花音
※島崎信長の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記

©2016「君の名は。」製作委員会

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